卒業生インタビューVol. 3 空田真之さん
ーーまずは簡単な自己紹介からお願いします。
空田 2008年3月に文学部史学科を卒業した後、キーエンス、リクルートを経て、妻の祖父が設立した不動産会社を継ぎました。もともと不動産や酒屋を手掛ける会社だったのですが、娘が生まれたのを機に「子どもに誇れるような仕事がしたい」「子どもとしっかりと向き合い、彼女の成長に合わせて新たな事業をつくり上げていきたい」と思い、現在は「Learning in Context」というブランドで「学び」に関するビジネスを展開しています。
ーー「Learning in Context」では、どのようなビジネスを展開しているのでしょうか。
空田 私たちの目指すビジョンは「学びが人生を豊かにする」です。すなわち、”Human Centric(主体としての人間)からConstruction(建築物)まで”、あるいは、ソフトからハードまで「学び」に関わる人的・物質的環境を整えていく。さらに、私たち自身も共に学び、日々実践を続けることで共有知を創造し、学ぶ人・働く人にとって最適な環境を整えていきたい。こうした方針のもと、「学習する組織づくり」「学びの研究開発」「学びの環境デザイン」「学びの先進事例調査」「学びの場づくり」「学びの事業開発」の6つの事業を展開しています。
これらの事業を広げていくことで、「学びのコミュニティ」を醸成し、社会に生きる私たち一人ひとりが、自らの生きる意味や目的についてじっくりと考えながら、組織の多様性やこれまでにない働き方を実現していくきっかけをつくり上げていきたい。言い換えれば、ビジネスを通じて「学びの環境の共創」を進めていく。これが、私たちのミッションです。
ーー6つの事業の特徴について、簡単に聞かせてください。
空田 「学習する組織づくり」は、デザインシンキングや対話型ワークショップなどを取り入れた組織研修を3ヶ月から半年かけて実施して、メンバー一人ひとりが自律的に考えることのできる多様性のある組織開発を創り上げていく取り組みです。
「学びの研究開発」は、大学や企業など、様々な機関と協働しながら、組織や個人が何のために学ぶのか。そして、その学びが社会のなかでいかに活かされているかをリサーチする取り組みで、現在は立命館大学さんと共同で進めています。
ーー「学びの環境デザイン」「学びの先進事例調査」についてはいかがでしょう。
空田 「学びの環境デザイン」は、不動産業を手掛けてきた経験を生かすとともに、主体者との対話を重ねながら、学びと表現を豊かにする環境の共創を目指す取り組みです。3~4時間のワークショップを何度も積み重ね、立地選びから保育理念、保育動線に至るまで、現場の声を積極的に拾ったうえで、設計プロデュースやリノベーションを行います。認可保育園や企業主導型保育園、インターナショナル保育園など多くの実績があります。
一方、「学びの先進事例調査」は、海外の先進事例をリサーチし、そこで得た知見を未来のためのアーカイブとして生かす取り組みです。保育士やワークショップデザイナー、建築家をはじめとする多様なメンバーとともに、2018年はイタリア、2019年はデンマークに視察に行きました。現地の学校の寮に1週間宿泊させてもらい、生徒と触れ合いながら教育現場を視察したり、教職員や利用者との対話、フィールドワークなどを行いました。来年の視察先はカナダもしくはフィンランドを予定しています。
ーー「学びの場づくり」「学びの事業開発」について聞かせてください。
空田 「学びの場づくり」では実践の経験から得られる知の共有化とともに、学びのビジョンやリテラシーを持ち、人生を豊かにしている方々をお招きし、彼らの人生のストーリーやメンタルモデルを理解するための試みを展開しています。2018〜2019年にはMITメディアラボ副所長の石井裕教授をお招きしたセミナーを開催し、詳細なレポートとともに2時間に及ぶ講演動画を公開しました。
最後の「学びの事業開発」は、関係性から生まれる学びを様々なかたちで表現し、コミュニティの課題に向き合う取り組みです。サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」の2019年9月開校に向けてプロジェクトマネージャーとして関わったほか、新木場や西葛西、葛西の商店街の運営、そして、2020年4月には、長女が小学生になる年度のため、東京学芸大学さんや地域団体と連携し、民間学童施設commonの運営を開始します。
ーー地域に軸足を置きながら、スケールの大きな取り組みを進めていらっしゃいますね。ここからは少し話題を変えまして、大学時代の思い出について聞かせてください。
空田 いちばんの思い出は、オープンキャンパスの実行委員です。4年間ずっと企画スタッフとして、高校生に対して法政大学の存在をアピールするための企画をずっと考え続けました。1年目は個別相談を担当しましたが、2年目からは新規企画の立ち上げに熱中。学生の生活についてのパネルディスカッションや、文学部の学部説明会、全8学部の基礎的な知識を学べるイベント、受験生の親御さん向けの就職情報説明会など、じつに様々な企画を立ち上げました。
運営はともかく、企画段階から学生が主体となってオープンキャンパスイベントを開催するケースは全国的にみても珍しいと思いますが、毎年毎年、本当に充実感・達成感がありましたね。実行委員の仲間たちとは今も深いつながりがあって、私の会社で働いている後輩もいるんですよ。
ーー学生時代の思い出として、ほかには何かありますか。
空田 卒業論文ですね。幼少期から歴史が好きで、ローマ史を学びたくて法政大学に入学しました。そのため、卒業論文では元首政ローマから共和政ローマへの移行のきっかけについて論じたのですが、死ぬほど苦労しました。年末から正月にかけて、一人で部屋にこもりきりでしたし、文献を読めば読むほど、新たな疑問が生まれ、期限内に終わるか正直とても不安でした。ただ、卒業論文を執筆するなかで、一つの物事についていろんな視点から複眼的に考える力、様々な議論の根拠を突き合わせて分析した上で、自分自身の意見を提示する「クリティカルシンキング」の力など、社会人として必要不可欠な能力を身につけることができたのは間違いありません。今にして思えば、とてもいい経験になりました。
ーー「法政オレンジコミュニティ」にどのような活動を期待していますか?
空田 単にコミュニティのメンバー同士でときどき集まって親睦を深めるというのでは非常にもったいないし、活動の幅も広がらないと思います。同じ大学出身者のコミュニティということは、一定の価値観を共有し、ベースの信頼ができているメンバーの集まりなわけですよね。この信頼を基盤として、ビジネスの情報交換をしたり、インターンシップを募ったり、リクルーティング目的のイベントを開催したりと、様々なアクションが生まれる仕組み、つまり実践コミュニティを創ることが大切ではないでしょうか。その意味で、コミュニティに関わる年長者に求められる役割はきわめて重要だと思っています。