卒業生インタビューVol. 16 松沢侑香さん
――まずは、自己紹介と法政大学卒業から現在に至る経緯を教えてください。
松沢 松沢侑香と申します。私は2020年に社会学部メディア社会学科を卒業しており、多摩キャンパスの出身です。現在は、中日新聞で4年目として働いています。 2020年の4月に中日新聞に入社し、本社のある名古屋で4ヶ月間、新聞配達などの研修を受けました。8月には石川県金沢市の整理部に所属となり、記者が書いた原稿への見出し付けや、写真の大きさのレイアウト決めなどの仕事を経験しました。2021年9月より、岐阜県高山市で記者として働いています。
――現在のお仕事内容について教えてください。
松沢 色々な人に出会い、色々なことを取材をしています。決められた分野はなく、先日は、幼稚園のお芋掘りの取材をしました。高山市は観光地なので、観光に携わっている方々に今の課題を聞くこともあります。1日として同じ取材はないのでとても楽しいですね。
――記者のお仕事のやりがいや苦労について教えてください。
松沢 高山に住んでいる人たちがどのようなことに困っているのか聞き、それを記事にして、行政などに伝えるということを、とても意識しています。読者の方から「読んでいるよ」、「記事で、この街の課題について考えさせられた」という言葉をいただくことが、やりがいにつながっています。
苦労は、影響力が大きいことです。読者が減ってしまっているのですが、新聞自体は影響力があるんです。記事を書いてみたときにニュアンスが少し違うとか、噛み砕いて書こうとしたらその噛み砕き方が違ったとか…それによって取材相手を傷つけてしまうことや、事実と違うことを書いてしまうときが怖いなと思います。そういった恐怖と常に隣り合わせで、書いている感じはあります。
――耳で聞いた内容を、どのように文字におこすか、ニュアンスなど確かに難しいですよね。取材して新聞記事になるまで、校正はどのくらいあるのでしょうか?
松沢 自分で書いてチェックして、その後に「デスク」と呼ばれる上司が記事を見て、さらに読みやすくするなど修正が入ります。その後、本社にある校閲という部署が字の間違いや人名を修正し、最後に、私が以前所属していた金沢の整理部が見出しをつけ、確認を行います。
――記事になるまでにも色々なお仕事があるのですね。
松沢 忙しいと、間違いに気づかず確認が甘くなることもあり、何度か悔しい思いをしたことがあります。記事を書いた記者の責任の重大さを感じます。
――ここからは学生時代のことについてお聞きしたいのですが、よく本を読まれていたそうですね。
松沢 はい。自宅から多摩キャンパスまで片道2時間で、最初は「えー、そんなにかかるの」と心配していたのですが、読書の機会を与えてくれたと思うと最高だったと思いますね。小説も読みましたし、自分探しをしていたので、自分のやりたいことを見つけられるヒントになりそうな本をたくさん読んでいました。
――松沢さんおすすめの本があれば教えてください。
松沢 おすすめの本は2冊あって、朝井リョウさんの『何者』と、水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』です。今の自分がこうやって記者をやっているのは、特にこの2冊の影響ですね。
『何者』を読んだときはショックを受けました。TOEICの試験の前に読んでいたのですが、読んだ後問題が解けないくらいでした。『何者』を読んで、人を批判して分析している人こそ何をやっているの?と言われた気がしたのです。そこで、「ああ、これではダメなんだ」と思いました。
『夢をかなえるゾウ』も同じで、私の解釈ですが、自分で動いていかないと、好きなことにも出会えないし、何がやりたいのかもわからないと思いました。今だったら当たり前のことだと思いますが、そのときはとても衝撃を受けましたね。アルバイトも変えましたし、色々と行動を起こすようになりました。
――アルバイトもたくさんやられていたそうですね。
松沢 クラブ、サークル、ゼミには所属していなかったので、学生時代に力を入れていたのはアルバイトですね。将来の夢が決まっていなかったので、どんな仕事が自分に合っているのか試してみようと思って、色々なことに挑戦していました。
応募の時は「多分楽しいだろうな」と思っていたのですが、実際に働いてみると自分に合わなかったアルバイトもありました。どの部分が嫌だったのだろう、こういうことが私は嫌なんだということがわかると、それもやりたいことにつながると思いますので、大事な経験だったと思います。
――法政大学での学びや体験で印象に残っていることはありますか?それが現在のお仕事に活きていると感じることはありますか?
松沢 授業がとても面白かったです。その時は記者になろうと思って授業を受けていたわけではなかったのですが、聞き方によって相手の答え方も変わるという内容の授業が印象に残っています。たとえば、車の事故があったときに「どういう事故でしたか?」と聞いた場合と「どんな衝突でしたか?」と聞いた場合では、「どんな衝突でしたか?」と聞いた方が相手が大袈裟に答えるのです。そういう実験結果を示してくださったときに、「こんなことあるんだ、すごい!」と印象に残っています。
教室全体で実験したこともありました。2枚のプリントがあって、それぞれに文字とイラストが書いてあります。イラストは全く同じですが文字が異なり、「何が目に止まりますか」という実験です。同じイラストなのに、書かれている文字が異なるだけで、先入観で見るものが全部変わってしまうのです。 そのような実験を交えた面白い授業が多かったので強烈に覚えていて、今の仕事にも活きていると感じます。聞くときに気をつけようとか、聞き方で先入観を与えていないかなとか、学んだことをふと思い出して意識しています。
――それでは、ご自身の今後の目標やビジョンを教えてください。
松沢 新聞を一人でも多くの人に読んでもらえるように、なるべくわかりやすく記事を書くことです。地域の問題を追っていると、「何とか記事にしなくては」と熱中するのですが、その一方で新聞を取っていない人も多く、時には読者からも「そんな記事あった?」という反応をいただくことがあり、温度差を感じる時があります。自分とは関係なさそうに思える小難しい話を、読み飛ばしたり無意識に避けたりするのは仕方のないことですよね。私もそうです。一人でも多くの人に読んでもらえるような記事を書くことが目標です。 あと、新聞だけではなく、ネットの記事なども考えていくべきなんだろうなと思っています。どういう形が一番読みたいと思うのかなど、文章だけではなく、何に載せれば一番読者に届くのかということも今後考えながら、記者の仕事をしたいなと思います。
――最後に、若手の卒業生や在学生に向けてメッセージをお願いします。
松沢 在学生の中には将来何がしたいのか分からず、焦燥感に駆られている人もいるかと思います。私がまさにその状況でした。でもある教授が「君たちはまだ学生なんだよ。何回チャレンジして失敗しても、学生という身分が残っているんだから怖くないでしょう。どれだけでも挑戦すればいい。」というような話をしてくれて、その言葉に勇気をもらい、在学中はアルバイトを含め色々な経験をしました。一歩を踏み出せていない人も多いのかなと思うのですが、とりあえず小さなことでもいいから、なんでもやってみることです。
興味のあることでも、経験してみて初めて分かることも多いです。「なんか想像と違ったな、嫌だな」と思っても、それだけで大収穫だと思います。選択肢を持つためにぜひ色々な経験をしてください!
【プロフィール】
松沢侑香
中日新聞 岐阜支社高山支局
1997年生まれ
2020年に法政大学社会学部メディア社会学科を卒業