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2022.10.28
インタビュー

卒業生インタビューVol. 12一守屋輝一さん

――初めに簡単な自己紹介をお願いします。

守屋 2018年にデザイン工学部システムデザイン学科を卒業、2020年にデザイン工学研究科システムデザイン専攻を修了した守屋輝一と申します。

私が現在勤めている株式会社スタディーズでは、事業戦略からクリエイティブまで一気通貫で担うデザインコンサルティング業務に従事しています。加えて、学生時代に立ち上げたプロジェクトについても、個人レーベル「KIICHI」名義でスタディーズの支援を受けながら取り組んでいます。さらに、海洋テックベンチャーであるイノカのコアメンバーとしても活動しています。

――現在の勤務先であるスタディーズでの仕事内容について教えてください。

守屋 スタディーズでは、デザインコンサルタントとして企業のデザイン支援をしています。デザインといっても、一般的に想像されるWebデザインやロゴの作成だけでなくて、企業におけるビジョン・ミッション・バリューといった事業戦略策定にあたってのコピーライティングも行っています。

ここで言うコピーライティングとは、CMで使われるようなキャッチーなものとは少し異なり、事業戦略策定に至った過程や策定に携わったメンバーの想いなどの複雑な内容をコピーひとつで想起できて、誰にでもわかるように落とし込むというイメージです。そして、完成したコピーをWebサイトから発信したり、各部局・事業所に伝えたりしています。つまり、上流である事業戦略から下流であるアウトプットの部分まで、全てのデザインコンサルティングに関わっています。

――続いて、守屋さんの個人レーベルである「KIICHI」ではどのような活動をされていますか?

守屋 「KIICHI」ではプロジェクトリーダーやディレクターの立場で、製品開発・事業化・研究活動など多岐に渡り活動しています。子どもの自転車ライフを守るカギ「PROLO」(JAMES DYSON AWARD日本最優秀・国際TOP20)やしゃべるぬか床ロボット「Nukabot」(国際学術会議 CHILBW論文採択、日本科学未来館常設展示)が代表作で、今秋・来春にも新作発表を予定しています。

――「PROLO」が誕生した背景には、自転車に乗る子どものヘルメット着用率が低いことへの問題意識があったとお聞きしました。

守屋 はい。また、ヘルメットを被っていない親は子どもに強制的な言動を取ることに、子どもは親にそういった態度を取られることに違和感があるという潜在的な課題にも着目しました。そして開発されたのが「ヘルメットを着用することでカギを解除できる仕組み」を持つスマートロック「PROLO」です。

非常にシンプルな解決策でありながら「自転車に乗るまでの行為の中に、初めからヘルメットの着用が組み込まれているようにする」ことで、アクティブセーフティを自然な形で実現しています。親子の違和感となっていたヘルメットを強制させる言動を、人間が介在しないようにモノが代替することで「子どもの命も、親子の関係性も守る」ことができるプロダクトとなっています。


写真は2019年時点のものであり、未公開である現在開発中の仕様とは異なります。【特許出願中】

――ぬか床ロボットの「Nukabot」についても教えてください。

守屋 ぬか漬けは、適切なタイミングでかき混ぜる必要があり、少しでも放置すると腐ってしまうため、管理がとても難しいものです。「Nukabot」は、そんな気まぐれな発酵菌たちの声を届けられたら良いのではという発想から始まったプロジェクトです。

このロボットは、ぬか床の発酵状態やかき混ぜどきを声で教えてくれたり、自分好みの味を記憶してくれるため、人それぞれ違うぬか床ライフのパートナーとなってくれます。ぬかを腐らせないことだけが目的であれば、全自動かき混ぜ器でもいいのかもしれませんが、ぬか漬けを作っている人たちは、画一的な味を望んでいません。本来のぬか漬けの楽しみである「自分の手でかき混ぜ、自分だけの味を作る」体験を残しながらも、完全に腐らせてしまわないようにサポートする。それがNukabotの本質です。

――人々の生活をただ便利にする製品ではなく、人間が関わる余白を残している点が素敵ですし、今の時代に合っていると感じます。

守屋 ありがとうございます。AIやロボットが人間の暮らしを豊かにしてくれている中で、「人間らしさ」について、どれだけ考えるのかが重要になる時代になりましたよね。僕は「人間らしさ」とは「弱さ」であると考えていて、人の行動・心理における理想と現実のギャップを指しています。「『そうすべきではない/そんなはずはない』という認識に立ってはいるが、必ずしもその通りには『行動できない/思い込みきれない』」という感情的な側面や物語性のようなものです。僕のプロジェクトはそういった「弱さに寄り添う」点が今の時代との親和性が高く、評価いただいていることにつながっていると考えています。

Nukabot

――海洋テックベンチャー企業であるイノカではどのような活動をしていますか?

守屋 イノカではCDO(チーフデザインオフィサー)として、コミュニケーションツールから研究レポートまであらゆるクリエイティブのディレクション、子ども向けの環境教育プログラム「サンゴ礁ラボ」のプロデュースを担当しています。

実はこの「サンゴ礁ラボ」も「人の弱さ」に配慮しています。事業者は子どもたちに自然や生き物の魅力だけでなく、環境問題についても知ってほしい。一方、子どもたちからすれば危機感あるメッセージは退屈になりがちです。そこで「サンゴ礁ラボ」では「遊ぶように学べる」環境教育プログラムを目指しました。具体的には、イノカが持つ技術を活用し、都内でもなまの生き物に触れ合えたり、生態系を「カードゲーム化」することで構造的に理解できるようにしているといった内容です。リアルでの開催が大半ながら、参加者はコロナ禍の2年で5,000名を超えています。

――守屋さんは、デザインコンサルタント企業の社員、個人レーベルの代表、ベンチャー企業のコアメンバーと様々な領域でご活躍されていますが、仕事のやりがいについて教えてください。

守屋 やりがいは主に2つあります。1つは、ときにデザイナー、ときにビジョナリーとして、全てを網羅したような働き方ができている点です。デザイナーとは、「制作」のイメージが強い職業ですが、世の中のあらゆる制約を、創造力を働かせ、いかにして突破するかを考える仕事でもあります。一方、ビジョナリーとは、制約と向き合うことはありつつも、どちらかといえば経営者として大きな夢を描き、その実現のための交渉やマネジメントを担います。3つの組織に関わるということは、これらを常に行き来するということですから、私のような若輩者にとって大変貴重な経験です。

2つ目は、好きな仕事をしているというよりも自分らしい仕事ができている点です。僕は5、6歳くらいの頃から日記というかメモのようなものを書くことを通して、日常的に人の弱さについて考えながら生きてきました。そういった幼い頃から続けているルーティンがそのまま仕事に生きています。

――弱さについて考えてきたのには、どのようなきっかけがあるのでしょうか?

守屋 それは「輝一」という僕の名前に由来しています。幼い頃から「一番に輝く」という意味を持つ自分の名前を意識していましたが、自分より足が速くてモテる人はいるし、誰より勉強ができるわけでもない。この世界の「現実」と名前が示す「理想」とのギャップを目の当たりにし、私自身が持つ矛盾や葛藤について内省するようになりました。

また徐々に、「どうやらこれらの感情は自分だけが抱えているものではない」と思うようになり、自分自身や他者の様子を観察して感じたことをメモに記録するようになっていったという経緯です。なぜ意図せず苛立ってしまうのか、なぜ誘惑に負け怠けてしまうのか、なぜ愛しているのに傷つけてしまうのか。そんなことを20年ぐらい考え続けてきたので、「人の弱さ」に関する経験値は人一倍ある気がします。

――話は変わりますが、大学時代に学びの面で力を入れて取り組まれたことがあれば教えてください。

守屋 学内の成績を高いレベルで保ちながら、活動の場を学外に求める姿勢を一貫して追求していました。法政大学のデザイン工学部は日本屈指の「総合デザイン(美学・工学・経営を横断するシステムデザイン)」を学べる場なので、講義やゼミ活動を本気で取り組むことで得られる教養は素晴らしいものがあると思っています。一方、それを活かす場を学外に求めることで獲得できる実践知もあります。むしろ、社会で活きる学びのほとんどは外にあると考え、主体的に課外活動に参加していました。

――課外活動の面で力を入れて取り組まれたことについて、詳しく教えてください。

守屋 大学1年の時は、自分で製品開発も行うようなデザインサークルに所属しました。2年から4年は広告制作会社でインターンをしていて、イベントのプロデュースやWebマガジンの執筆を行いました。3年から大学院2年までは、グッドデザイン賞の審査サポートをする学生インターンにも参加していました。そこではリーダーを務めていたのですが、著名クリエイターの方々や同世代のデザイン系学生と交流をして刺激を受けることで、もっと学外の活動に参加したいと考えるようになりました。このように学内外を横断することが、学生時代の僕のスタイルだったように思います。

――ご自身の今後の目標やビジョンを教えてください。 

守屋 大学院卒業から2年半、土を耕して、撒いた種がいよいよ芽が出てきたという段階に入り、開花に向けてより一層力を入れていくことになります。具体的には、開発した製品の特許出願が完了し、公の場での活動機会が増えたり、新製品の発表と事業成長に向けた取り組みを行ったりすることです。

また、僕自身は「人の弱さを前提に課題を解決する」を理念に作品を発表し、評価していただいてきましたが、これは先ほど言ったように幼少期から人の「弱い」心理や行動について考えてきた影響です。その個人的な知見を活かした発信にも興味がありますね。このように「作る」ことと「語る」ことの両輪で他人を癒し、それによって同時に自分自身も癒されていく。そんな生き方を生涯貫いていきたいと考えています。

――最後に、在学生にメッセージをお願いします。

守屋 今ある手札や明日にでも手に入りそうなテクニック論に終始せず、自分がどこまで行けるかを背伸びして想像する「遠くを見る力」を持つことの重要性を伝えたいです。

人は本人がイメージできる範囲でしか未来を選べません。とても当たり前のことを言うようですが、ライト兄弟が飛行機を生み出せたのは、空を飛びたいと願っていたからですよね。それと同様にまずは「私はどこまでいけるだろう」と胸を高鳴らせ、なりたい自分の姿のイメージを膨らませることが大切だと思います。

【プロフィール】

守屋輝一  Kiichi Moriya
システムデザイナー・プロジェクトリード

1995年埼玉県生まれ。KIICHI主宰・株式会社スタディーズ在籍。法政大学大学院デザイン工学研究科システムデザイン専攻修了(ヒューマニティデザイン研究室)。
クリエーション・エンジニアリング・マネジメント3分野横断型の総合デザインおよびプロダクトデザインを学ぶ。子どもの自転車ライフを守るカギ「PROLO」でJAMES DYSON AWARD日本最優秀賞・国際TOP20受賞。しゃべるぬか床ロボット「Nukabot」で国際学術会議CHI LBW論文採択、日本科学未来館常設展示。
他にも「『人の弱さ』を前提にした仕組みづくり」をテーマに、自主プロジェクト・組織とのコラボレーションの両輪で活動している。2022年から海洋ディープテックベンチャー株式会社イノカCDO。

https://kiichimoriya.jp/